ツール活用術

2025年版 AIガバナンス&法務ガイド ― 個人情報・著作権・電気通信事業法を総整理

「モデルは速い、でもルールは待ってくれない」
生成AIを業務に噛ませるとき、最大のボトルネックは法務とガバナンスです。本稿では 2025-05 時点で確定している国内外の正式ガイドラインだけを抽出し、組織に落とし込むステップとリスクマトリクス まで掘り下げます。

▼ 目次


1. 法規制サマリーマップ

上図は「プロンプト→API→暗号化DB→LLM→ユーザー」までのデータ流れを可視化したものです。どのレイヤーで 個人情報保護法・電気通信事業法・著作権法 が関与するかを色分けし、責任分担を明らかにすることで“抜け漏れ”を防ぎます。


2. 個人情報保護:PPC・GDPR 最新動向

日本:PPC「AI利活用ガイドライン」(2024-04 改訂)

  • 学習段階:個人識別性の評価 → 匿名加工 or オプトアウト措置
  • 推論段階:目的外利用禁止を契約に明示。ログは14日で自動削除推奨。

EU:GDPR × 生成AI

  • EDPB ガイドライン(2024-07):生成AI出力も“個人データ”になる場合がある。
  • 説明義務(Art.14)→ プロンプト/モデル/重みの保存手順 を社内規程へ。

3. 生成AIと著作権の論点

論点日本欧米
学習用複製著作権法30条4(TDM例外)で許容EU TDM 指令:著作者がオプトアウト可
生成物保護創作性要件ありUS Copyright Office:AI単独生成は不可登録(2024-03)
二次創作訴訟事例無し(係争中)NY南部地区 “Andersen v. Stability” 係争中

4. 改正電気通信事業法:API連携の“通信の秘密”対策

  1. 特定電気通信役務提供 に該当すると“通信の秘密”を保持する義務
  2. 暗号化保管:プロンプトとレスポンスは AES-256 以上で保存
  3. 権限管理:エラーログ閲覧を SRE ロールのみに限定
  4. アクセス記録:90 日以内の監査ログ保持

5. EU AI Act 高リスクAIの実務影響

分類義務(抜粋)
高リスクAI雇用選考・重要インフラリスク管理、データガバナンス、CEマーキング
GPAIGPT-4o・Geminiエネルギー効率報告、透明性文書公開
禁止AI社会的スコアリング使用禁止、罰金最大総売上7%

6. 社内ガバナンス実装ロードマップ

フェーズ施策所要
0ヶ月AIポリシー策定、用途定義1週間
1ヶ月データフロー図・RACI表作成2週間
2ヶ月DLP&暗号化導入、権限設定完了1ヶ月
3ヶ月説明責任テンプレ(要約ログ+モデルVer)運用開始2週間
以降ISO/IEC 42001 適合審査 → 年次レビュー半期毎

7. リスクマトリクスで優先度を可視化

  • 縦軸:発生可能性
  • 横軸:影響の重大性
  • :緑→黄→橙→赤
    最優先は赤領域(高頻度×高影響)=「個人データ×生成物公開」のケース。ここに対策リソースを集中。

8. まとめ:導入チェックリスト

  • [ ] PPCガイドライン最新版をチーム共有
  • [ ] 学習データ棚卸し → 個人情報の匿名加工有無確認
  • [ ] プロンプト/レスポンスを14日サイクルで自動削除
  • [ ] 電気通信事業法の“通信の秘密”→暗号化+権限管理
  • [ ] EUユーザー向けサービスのAI Act 高リスク判定

ガバナンスは“初期投資”ではなく“事業保険”。 小さく作って運用しながら拡張するのが結局いちばん速い、というのが実務の肌感です。

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参照元

  1. Google Blog「Our next-generation model: Gemini 1.5」(2024-02-08)
  2. OpenAI Pricing (2025-05)
  3. EU AI Act 最終テキスト(EUR-Lex 2024-12 公布)
  4. PPC「AI利活用ガイドライン」(2024-04 改訂)
  5. 総務省「改正電気通信事業法ガイドライン」(2024-06 施行)

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